血液をサラサラにすれば防げる 心臓や脳の血栓(けっせん)
血栓とは、血管の詰まりのこと。心臓の冠動脈にできると心筋梗塞、脳にできると脳梗塞を引き起こします。
血栓を防ぐための最大のポイントは、食生活を改善して血液をサラサラに保つことです。
突然死の75%は「血栓」が原因。
突然死の恐ろしさは、文字どおり、今の今まで元気だった人が突然、命を落としてしまうことです。年間20万人にも達する突然死のうち、その75%が、血栓が原因による死であるといわれています。
血栓というのは、血液中の成分である血小板が固まり、血管を詰まらせてしまった状態のことです。血管に栓をしてしまうわけですから、ホースを踏んだときのように、そこから先へは血液が流れていかないことになります。
心臓に栄養と酸素を送り込んでいる冠動脈に血栓ができることによって起きるのが心筋梗塞、脳の血管が詰まってしまうと脳梗塞ということになってしまいます。心筋梗塞の発作の直後に死亡する率は40%といわれており、一度死んだ心筋は生き返ることはありませんので、心臓の一部がまったく働かない状態になって日常生活に大きな制約が生じてしまいます。
一方の脳梗塞も、発作直後の死亡率こそ低いのですが、たとえ回復しても半身不随や寝たきりになることが多い恐ろしい病気です。日本では、死因の第1位はガン、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患となっています。しかし、2位と3位の中には血栓による死亡者が数多く含まれているため、血栓による死はガンをしのぐともいわれています。
血小板が固まると血栓になる。
血管にはつねに血圧という大きな圧力がかかっていますから、年齢を重ねるにつれて傷ができやすくなってきます。この傷を補修するために集まってくるのが血小板です。
血小板は、切り傷をしたときなどに早めに血を固め、出血を最小限に抑えるという大切な役割を果たしているのですが、血を固めるという行為がデメリットとして働くこともあります。ときとして、血小板の機能が亢進して互いにくっつき、血管内で固まってしまうことがあるのです。専門的には「血小板の凝集能の亢進」と呼ばれており、こうしてできた固まりが血栓です。
血管にすでに動脈硬化が進んでいる場合は、もっと条件が悪くなります。血液中に悪玉コレステロールや中性脂肪が多いと、血管壁にできた傷から内部に入り込み、血管の内径を狭くするとともに、血管壁を硬化させてしまいます。これが、一般に動脈硬化と呼ばれているものです。こうした状況に血栓ができると、血液の通り道がいっそう狭くなり、たとえ小さな血栓でも血管を詰まらせることになりかねません。
ドロドロ血液は血管に詰まりやすい。
動物性脂肪を控えて緑黄色野菜をたっぷりとる。
たとえ血管の内径が狭くなっても、血液がサラサラであれば、狭い通路を通って末端まで栄養や酸素を送ることができます。ところで、このサラサラという表現は、具体的にはどのようなことを表しているのでしょうか
血管は末端に行くほど細くなるのはご承知のとおり。毛細血管の内径は5~6ミクロンで、血液中の赤血球の大きさは6~8ミクロンです。この数字だけを比べてみた限りでは、赤血球は毛細血管の中で詰まってしまうか、まったく通れないことになってしまいます。
しかし、実際には、身体の隅々にまで赤血球は酸素を運び、老廃物を受け取るという仕事を果たしてくれています。なぜ赤血球は自分の身体より狭い所を通ることができるのでしょうか。
その理由は、赤血球が形を変える能力を持っているからです。狭い所を通るときには細長く変形し、するりと通り抜けてしまいます。ところが、血液中に脂肪や糖分が多いと、これらが赤血球の表面を硬くカバーしてしまい、変形する能力を奪ってしまうのです。
血液中に乳酸が多かったり、酸素が不足していたりすることも、赤血球を硬化させる要因になります。また、血糖値が高い状態が長く続くと、赤血球どおしがくっついて、大きな固まりになってしまうことすらあります。こうなると、赤血球は細い血管の中を通ることができなくなります。もし、大事な動脈に硬化や血栓ができていれば、こうしたドロドロ血液は、スムーズに流れずに詰まってしまいます。
サラサラ血液は食生活から生まれる。
サラサラ血液というのは、血小板は必要以上に固まることなく、赤血球は自在にその形を変える能力を持ち続け、中性脂肪やコレステロールなどが多量に含まれていない血液のことです。つまり、固まりを作りにくく、流れがスムーズであることが、理想のサラサラ血液ということになります。
かつてはエスキモーと呼ばれていたイヌイットの人々は、身体が傷つくと血が止まりにくいという特長を持っていました。これは、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの多価不飽和脂肪酸を多量に含むオットセイやアザラシ、青魚などを主食にしていたためです。彼らの血液はサラサラで、血栓症の発症が極めて少ないこともわかり、これが、食事と血栓症との関係を解きあかす最初の研究となったのです。
ところが、この話には後日談があり、年月がたつにつれてイヌイットの人々の暮らしぶりも変わり、ハンバーガーのようなファーストフードを食べるようになるとともに、心筋梗塞などの虚血性心疾患が激増してしまったのです。つまり、血液がドロドロになってしまったというわけです。これは、現代の食生活に対する警鐘ともいえます。
旬の青魚は血栓を作りにくい。
血液と食事がいかに深い関係にあるか、おわかりいただけたでしょうか。血液をサラサラに保つための条件をまとめると、次のとおり。
- 赤血球が自在に変形できる能力を持ち続けられるように、血液中の糖分や脂肪を減らすこと。とくに、糖尿病の傾向がある方は、血糖値を下げるように努力すること。
- 血液中にコレステロールや中性脂肪を増やさないために、動物性脂肪やアルコールをとりすぎないこと。
- 血液の粘度が高まるのを防ぐために、失われた水分は必ず補給すること。
- 食事内容に留意して、血小板を凝集しにくくすること。
この4項目の中でも、最近、もっとも注目を集めているのが、血小板が必要以上に固まるのを防ぐ働きのある食品の数々です。イヌイットの研究から、さば、いわし、さんまなどの青魚に、血液をサラサラにして血栓を作りにくいという作用が認められているのは前述のとおり。しかし、これらの魚も、脂ののった旬の時期とそうでない時期とでは含まれるEPAやDHAの量に大きな差があることがわかっています。
椙山女学園大学の並木和子教授の研究によれば、旬の時期の含有量は、最も少ない時期の約10倍にも達します。旬の時期には値段も安くなり、おいしい上に血栓の予防にもつながるのですから、一石二鳥どころか一石三鳥です。
野菜や果物にも抗血栓性がある。
血栓を作りにくくする食品は魚ばかりではありません。前出の並木教授によれば、野菜や果物などにも血液をサラサラにする作用を持ったものがたくさんあるということです。また、緑茶の渋み成分であるカテキン、紅茶の色素のテアフラビンにも、同様の効果があるそうです。
こんな実験があります。血小板を含んでいる血清を5つに分け、片方にはにんにくのエキスを加え、もう片方には何も加えずにおきます。ここに、血小板を固まらせる物質を入れて5分ほどおくと、にんにく入りのほうは何の変化も起こらないのに対し、にんにくなしのほうは白い雪のような結晶がたくさんできてきます。この白い結晶が血小板の固まりです。このような変化が血管の中で起これば、血管を詰まらせることになってしまいます。
並木教授は、にんにくのように抗血栓性の高いものから低いものまで点数をつけ、日常生活の中で利用しやすいように一覧表を作っています。これらは各食品100gあたりの抗血栓点ですから、1日に食べた食品のグラム数に応じて点数を計算し、その合計が1000点を超えれば、血栓ができにくい食事ということになります。
食事で体質を変えるには長い時間を要するように思えますが、並木教授によれば、抗血栓性の高い食事を食べて4時間後に血小板の固まりやすさを調べると、食事前に比べて固まりにくくなっていることが確かめられています。平均して、魚は食べてから2~3日は抗血栓性が持続しますので1日おきぐらいに、野菜は5~6時間しか効果が持続しませんので、毎食なんらかの形で食べるのが理想だということです。
なお、いくら抗血栓点の高い食品を食べていても、調理法によってはカロリーのとりすぎにつながることもありますので、注意が必要。肥満は動脈硬化や高血圧を促す危険因子です。また、納豆やほうれん草には抗凝血剤の働きを阻害する作用もありますので、心筋梗塞などの治療薬を服用している方は医師と相談するようにしましょう。
【同じ材料でも料理法によって抗血栓効果に大きな差が。】
並木教授の実験によって、血小板を固まりにくくして血液をサラサラに保つ働きのある真いわしでも、調理法の違いでこの働きに大きな差が生じることがわかりました。生で食べたときの血小板凝集抑制作用を100%とすると、素揚げにして30分煮込んだものは効果が約25%にまで下がってしまいます。これは、油の中にEPAやDHAが溶け出してしまうためです。同じく油を使った天ぷらやフライも、血小板を固まりにくくする効果が低くなります。
それでは、どんな調理法がよいのかというと、トップは刺身、次いで塩焼き(約90%のEPAやDHAが残留)、ムニエル(約90%)、酢煮(約80%)、普通の煮もの(15分加熱で約75%)の順。一般に調理時間が長くなるほどEPAやDHAの残留が少なくなります。オーブンや電子レンジを使った調理法では、約70%の残留が認められますが、これは加熱時間が短いためと思われます。
血栓症、こんな人は要注意。
血液は、暮らしぶりや食生活を反映する鏡のようなものです。血液がドロドロになって動脈硬化や血栓を起こしやすい人には、共通の生活パターンが認められます。血栓による突然死や心筋梗塞、重い後遺症を残しがちな脳梗塞などを引き起こさないために、ぜひ今日から予防のための生活を心がけてください。
【しみ、そばかすを防ぐ健康食品】
タバコは欠陥を収縮させる作用があるため、血管内に血液が通りにくい状態にしてしまいます。また、非喫煙者に比べると、善玉コレステロール値も低くなりがちです。 | 肥満につながるだけでなく、心肺機能が弱くなって血行が悪くなります。 |
血管にかかる圧力がつねに高いため、血管壁に傷ができやすくなります。この傷が血栓の引き金になります。 | 動物性脂肪のとりすぎ、お酒の飲みすぎ、夜遅くまでの飲み食いなどは、中性脂肪とコレステロールを増やして血液をドロドロに。 |
精神的なストレスは血中のカテコラミンという物質を増やし、血管壁を傷めて動脈硬化を進行させます。 | 食物繊維にはコレステロールの吸収を抑える作用があります。 |
血糖値が高いと赤血球が硬くなり、動脈硬化を起こして細くなった血管を通ることができなくなります。 | 中性脂肪と悪玉コレステロールが多くなり、動脈硬化や高血圧の引き金になります。 |